6月30日の立候補届け出に全てが出揃って以降、すでに熱い選挙戦が始まっています。
【選挙当日までの流れ】
6月30日 立候補届け出 と 選挙活動開始(1日目)
<9日間の選挙活動期間>
7月8日 選挙活動 9日目
7月9日 クーリングオフデイ(投票前日)
7月10日 投票日
与党 PAP は大多数を占めることがほぼ決まっています。将来的に野党が政権を握る可能性は充分にあり得、それを望んでいる国民が多いことも事実です。しかし現実的になるにはもう少し時間がかかりそうで、それが10年になるのか、20年になるのか、まだまだ半世紀ぐらいかかるのか、それは誰にも分かりません。
与党は勝つけれど、最大の見どころは与党がどれぐらいの得票率を得るのか、それとも辛勝することになるのか、野党はどれぐらい躍進していくつ議席を確保できるのか。野党はどれぐらい与党に肉薄することができるのか。
選挙戦は9日間。今回設定された選挙区は 31地区。どの地区も熱いものを感じますが、その中からいくつか注目されるホットな選挙区についてピックアップしました。
選挙区地図は Straits Timesによるもの
Aljunied は 2011年以来、2期 (10年) 続けて野党 WP が勝利を収めている地区。2011年に WP が初勝利をあげた時は、与党で外務大臣を務めていた信頼も厚い有力政治家であった George Yeo氏が涙をのみ、与党にとっては何ともショッキングな結果となりました。現在与党で実力をつけている教育大臣 Ong Ye Kung 氏も 2011年に George Yeo氏と共に、この地区からグループ選挙区の候補者として出馬し涙をのんだ方。グループ選挙区で負ける時の最大の痛みは、有力候補者が一気に5名(当時6名の選挙区もありました)全員吹っ飛ぶこと。George Yeo氏はリー首相よりも少し若く、シンガポール政治界にとって貴重な存在でしたが、敗北した 2011年総選挙を機に政界から引退され、与党ではこの時の痛みが今でも残っています。
その Aljunied で3期連続勝利を狙う野党 WP は今回もここに WP の最有力者を投入してきました。そして与党はと言うと、この地区では負けても良い布陣を送り込み、選挙前からこの地区は野党へ譲った形となっています。強い与党をアピールするには、ここに与党が勝てる布陣を立ててほしいところですが、与党のベテラン実力者が多く引退したこともあり、与党は全体的に実力のある候補者が足りない感は否定できません。
得票率
2011年
WP 54.72%
PAP 45.28%
2015年
WP 50.95%
PAP 49.05%
と過去2回とも激戦区。今年も野党がどれぐらい得票数を伸ばすか注目されます。
もともと野党 WP が強いのは Aljunied 地区の北西側 Hougang 寄りが野党地区で、東側の Bedok North の住民には与党派が多く、与党復活を望んでいる住民も多いですが、今年も野党勝利がほぼ確実な地区です。
総選挙後、リー首相に代わって次期首相になると言われている、現在副首相の Heng Swee Keat氏が、今回は East Coast から出馬することになりました。Heng Swee Keat氏は長年タンピネス選挙区でしたが、この East Coast 選挙区から与党ベテランが引退したことで、タンピネス選挙区から出馬地区を変えました。
野党 (WP) は注目される若手女性政治家 Nicole Seah氏をこの地区に立ててきました。彼女は 2011年に他の野党 NSP からマリンパレード地区に出馬し、野党の負けは確実であったものの、今回与党から引退を表明されたゴーチョクトン氏に対抗し、当時24歳の若さで女性最年少候補者として大いに注目を集めました。最年少で注目を浴びただけではなく、シャープで聡明な印象、特に低所得者層への不公平や福祉制度の不足を訴え、与党による偏った政治体制について強く批判する姿勢が特徴です。
彼女が仮に与党にいたとしてもスター的存在になることは間違いなく、2011年の初出馬時以来、与党支持派からは与党で活躍したらといった声も多くありました。今回、党を乗換え野党ではいちばん強い WP から出馬のニュースは驚きを与えました。East Coast の WP 候補者は、彼女以外はおまけのおまけなようなもので、強力なスポットライトを浴びているのは Nicole氏への期待と選挙活動ぶり。政治家としての素質、野党そして国民を代表する声を上げる以外に、すらっとした長身でタレント的な要素も高い方。Heng Swee Keat氏率いる与党に対してどのぐらい得票数を伸ばすか注目され、与党、野党支持に関わらず興味深いところ。
彼女は個人で勝てる要素が高いので、なぜ SMC (1人で立候補できる小選挙区) から立候補しないのか、グループ選挙区からの立候補ではもったいなく、Nicole氏を国会に送るなら SMC から立候補する戦略はなかったのか、個人的には党としての戦略に疑問を感じます。WP では彼女は今回からの新入りであり、党内ベテランとの内部事情もあるのかもしれません。
1人が選ばれる小選挙区 Marymount に今回与党から初出馬で注目される女性候補者 Gan Siow Huang氏。彼女はシンガポール空軍出身で、今年初めまで軍に従事していましたが、与党に引き抜かれた形となり、政界入りで軍から退任しました。軍では女性史上初の Brigadier-General のランクを授与され、公的機関ですでにリーダーとして、組織の幹部として実績のある方です。
与党 PAP には軍の最高幹部から政治家になる登用ルートがあります。これは国民から批判の対象にもなっており、庶民は政治に関与できないのか、政権を握れるのはエリートだけなのかといった、軍から政治家への登用ルートを批判する国民の声が多くあります。
Gan Siow Huang氏は当選する見込みですが、他地区同様に与党としてどれぐらい票を獲得できるかが注目されます。
West Coast は与党に対抗する、野党 PSP が出馬し、PSP 党首の Tan Cheng Bock氏がグループをリードします。Tan 氏はもともと PAP出身で、与党議員として圧勝した経験もあり、国会議員としての経験もある方。強い与党を脱退して野党を形成するケースはどこの国でもありますが、シンガポールの場合、与党は派閥がなく、個性を生かしつつも首相のもと一致団結しているのが大きな特徴。党内での反発や権力争いはほぼ起こりません。他国と世界の土俵で戦っていくにはそんな権力闘争に時間を割く暇などないのです。チームとしてスピード感を持って国を動かし、小国ながらも世界の中でシンガポールの有利な点をアピールし、国際的競争力を打ち出せるのはシンガポール政権の強みです。
しかしそのチーム体制に反感を持つ人が稀にいます。まぁ人間ですからね…。全員が全員同じ方向を向かないこともあるでしょう。与党を脱退し野党 PSPをつくったのが、その Tan Cheng Bock氏。2011年大統領選に出馬し、前大統領 Tony Tan氏に敗北。2度目の大統領選に挑戦で、2017年大統領選にも出馬を試みますが、この時 Tan Cheng Bock氏の大統領就任を阻止する与党による政治的な動きがあり、シンガポール初の女性大統領、現在のハリマ大統領が無投票選挙にて大統領に就任。この政治的策略により、Tan Cheng Bock氏は更に現政権に対する批判を強め、闘志を燃やしています。
野党を支持する国民から一定の支持はあるものの、選挙活動中、野党演説などで表面的に野党優勢に見えても、投票結果で蓋を開けてみたら、見せかけだけで実際は与党に票が集まることも過去の傾向としてあり、PSPがどれぐらい得票数を獲得するのか注目されます。シンガポール国民は現政権に対して不満を言いつつも、実際には底堅い与党支持派もいます。投票者個々の視点でどこに重点を置くか、何を基準にして見極めをするのか興味深いところです。
個人的には、偏った見方になりますが、Tan Cheng Bock氏が単に権力に執着し、感情に任せた与党への対抗心で出馬しているように見え、彼自身、国民の利益や生活向上、更にはシンガポール国自体としての発展を心から願う強い意志が根底にあって政治活動を行っているようには見えません。
その Tan氏を擁護、支援するように出現し、リー政権を批判する リー首相の弟 リーシェンヤン氏。PSP から出馬し兄に対抗するのかとも思われましたが、これに関しても Tan氏は立候補届け出日まで、出馬するかもしれないと発言したり、出馬はないと言った後に再度、選挙は直前まで何があるか分からないと、国民を弄ぶかのような発言は誠実でないといった声も多数あがりました。そんな Tan氏を擁護するリーシェンヤン氏についても、兄弟間の私的な感情を持ち込んでいるだけなのではといった疑問が大きく残り、このお2人については、国民のためよりも、個人の目的達成なのではと感じてしまいます。国民はどう判断するのでしょうか?
注目は全選挙区に渡り、見どころは他にも多数ありますが、特に熱い部分のみを挙げました。
先日もシェアしました選挙区と立候補者が一目で分かるマップを改めて載せておきます。
■ インタラクティブマップ
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イラスト提供 Instagram @singapolah