2020年総選挙、無事終わりました。
まずは、コロナ禍において奮闘された立候補者の皆さんも、真の声を届けた国民の皆さん、裏方として働いた職員の方々、翌朝にまで渡って現状を伝えてくれたメディア関連の方など、すべての方に本当にお疲れさまでしたと言いたい心境です。
投票率 95.63%
シンガポールでは投票は義務とは言え、これだけの人がそれぞれの一票に責任を持った結果が数字で表されているのは素晴らしいことだと思います。
選挙当日、投票は20時までの予定でしたが、19時頃になって22時までの延長が発表されました。コロナ禍の対応で、投票に並ぶ長蛇の列ができた投票所が発生したことへの対応です。その結果、例年は22時頃には速報が出始めるのですが、今回は日にちをまたぐことになり、最終的に公式結果が出揃ったのが翌朝4時近くになり長い長い1日となりました。
先に出るサンプルカウントで結果はほぼ確定していたので、わざわざ見なくても良いかな…という気持ちはありつつも、今回の選挙結果の現実を受け止めたいと思い、私は朝4時頃まで全部見届けてから寝ました。
93議席中、与党 83議席、野党 10議席 と 与党が総議席の9割を占める結果になったとは言え、与党にとっては非常に厳しい結果となり、僅かな得票差で勝った地区も多く、与党は国民から激しく警鐘を鳴らされた形となりました。野党はこれまでの最大6議席から10議席へと議席を増やし、記録を塗り替えました。たったの4議席増えただけですが、シンガポール政治界では歴史的なことであり、野党大躍進、大健闘の結果です。
■ East Coast
次期首相候補 Heng副首相率いる PAP と、野党 WP で国民からの支持が高い Nicole Seah さんが候補者の1人にいることで注目された East Coast。私はこの地区は野党が勝ってもおかしくないと思っていましたが、与党はかろうじて勝利。
得票率
PAP 53.41%
WP 46.59%
与党が勝ったというよりは、野党が大健闘した結果となりました。終わったばかりでありながら 5年後の野党に期待が高まり、次の選挙ではここも野党区となる可能性大です。
■ Sengkang
この地区では、野党 WP 初勝利を上げました。我が家はこの選挙区ですが、WP の新星 Jamus Lim さんが彗星のごとく現れ、野党勝利の可能性は高いと思っていましたが、結果を見るまでは何とも言えず。
得票率
WP 52.13%
PAP 47.87%
先にサンプルカウントの結果が出た時点で、我が家周辺からは野党支持者からの叫び声が次々と上がりました。その後、深夜3時半頃の公式結果発表時にも拍手が聞こえてきました。この地区は、他の地区と違ってニュータウン。住民は30代、40代で子供が未就学など小さなお子さんのいる家庭が多く、他地区のように昔からそこに住んでいるシニア世代が多い地区とは全く違います。現政権への変化を期待する世代が多い地区でもあります。WP からの候補者は4人とも若手ですが、若い世代の国民が野党若手を支持し、国民の声が真に反映された結果となりました。与党にとってこの地区を逃したことは痛い結果となり次の選挙での巻き返しも難しくなるでしょう。
■ Aljunied
予想通り3期連続の野党勝利。今回は得票率が更に伸びた結果もついてきました。
WP | PAP | |
2011 | 54.72% | 45.28% |
2015 | 50.95% | 49.05% |
2020 | 59.93% | 40.07% |
今回 WPの前党首 Low氏が引退し、新党首 Pritam氏となりましたが、Pritam氏は2011年の当選以来、着実に野党としての実力をつけており、WPの世代交代は確実に行われたことが分かります。華人から華人ではなく、党首としてインド系のPritam氏にバトンが渡されたことも、多様な声を望む国民の要望を映す形となっており、WP党首 Pritam氏への支持力は今後底堅いものになっていきそうです。Aljunied 地区は Low氏が Hougang の小選挙区から勢力を拡大して野党勢力を拡げた地域ですが、1990年代から Low 氏が小選挙区でこつこつと頑張ってきた実績がAljunied GRCまで拡大して定着し、ここはすっかり野党地区となりました。Aljunied地区での与党挽回は難しい時代が続きそうです。
■ West Coast
PAP に対して、Tan Cheng Bock氏が率いる PSP がどこまで迫れるか注目されました。
得票率
PAP 51.69
PSP 48.31
与党がかろうじて勝ちましたが、まだ新しい党 PSP にとっては大健闘。こちらも次回の総選挙での期待が高まる形となりました。Tan Cheng Bock氏がすでに80歳のため、Tan氏に代わってリーダーシップをとれる人材の育成が必要となります。
■ 与党 PAP
勝ったとは言え危機的状況であり、首の皮一枚繋がっているようなものです。得票率は前回 2015年の 約69%から更に落とし 61%となりました。全体的にどの選挙区も低い得票率で、次の選挙では野党に2割、3割議席を渡すことになっても全くおかしくない状況です。
党代表としてリー首相の会見
28分ですが最初の10分はマレー語と中国語
9日間の選挙戦から続いて、長時間に渡る投票日での疲れも大きいと思いますが、いつもの力強さではなく悲しげなものを感じます。WP躍進へのお祝いの言葉と、Sengkang地区で負けたことに対する残念な気持ちを述べつつも、引き続き政権を握り、コロナ禍での問題に対応していくと話されたことは、様々な想いが去来するであろう中、政党のリーダーを越えた国のリーダーであることを感じました。選挙活動中、演説で首相を交代すると明言されましたので、コロナ禍での総選挙が無事終わったことへの安堵感もぐっと伝わってくる会見でした。
どんな世界でも追われる立場というのは厳しいのだと痛感します。トップで独走することは永遠には続かない。時代の移り変わりとともに変化があり、入れ替わりがあるのは当然のことで、変化と現実を受け入れることで、より良い与党であることに挑戦し続けてほしいと願います。
■ 野党 WP
おめでとうございます。大躍進、素晴らしいです。批判だけの野党ではなくなったことを証明し、責任ある野党として引き続き実力をつけチャレンジしてほしいと思います。また野党 10議席が全て WP からというのも、他の野党との違いを見せ 強い野党 WPの実力を示しました。若手メンバーが多いことも頼もしく、シンガポールの凝り固まった政治体制に鋭く切り込み、与党にどんどん刺激を与えてほしいと思います。
今回の総選挙で新たな転換期を迎えた野党の、新たな時代が始まるのを感じます。今まで与党と大きく水をあけられていた時代から、先頭が見える射程圏内で追いかける立場となりました。今回結果的には総議席の1割にとどまりましたが、今後野党の議席を2割、3割と増やしていくのは間違いのないことで、野党勢力の拡大にそう長い時間はかからないかもしれないです。
しかしながら、野党に国内情勢を変えられる力はあっても、国際社会での政治の実力はないと考えている国民が大多数なのも事実であり、これからの野党の課題は、責任ある野党であるだけでなく PAP 同様の国際政治での実力をつけていくことが必要になっていきます。時間も根気もかかる課題ですが Jamus Limさんのような方がモデルとなって若手を育てられれば可能性も広がるでしょう。
シンガポール国民の誓いの言葉
We, the citizens of Singapore, pledge ourselves as one united people regardless of race, language or religion, to build a democratic society based on justice and equality so as to achieve happiness, prosperity and progress for our nation.
シンガポール人にとって最も重要なこと。全てのことの原則はこの National Pledge に明言されています。シンガポール人としての誓いであり、約束です。「どんな人も平等である」この価値観はシンガポール国民に深く根付いており、彼らの判断基準がここにあることを今回の総選挙で改めて確認することになりました。
選挙戦期間中、過激な対立も見られましたが、この対立の原因の根底にあるのは、シンガポール人の中にある「どんな人も平等」の価値観、考え方です。生きていると現実社会ではあらゆる不平等や格差がありますが、シンガポール人は、真の平等、究極の平等について求め、こだわっていることの現れであると感じました。
選挙でどんな結果となっても、シンガポール人が One united people であることに変わりなく、与党支持の人も、野党支持の人も、今回それぞれが望んでいた結果ではなかったとしても、より良いシンガポールをつくるための日々がまた始まった空気があることを感じると共に、シンガポールが永遠に進化し続ける国であり、深化(あえて進むではなく、深く深化)し続ける国民であり続けることを日々の中で見せてほしいと願っています。
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イラスト提供 Instagram @singapolah