シンガポールのホーカー文化、ユネスコ世界遺産入りで次なる課題は

シンガポールのホーカー文化は念願のユネスコ世界無形文化遺産入りを果たしました。ユネスコ入りまでの道のりも大変でしたが、世界遺産に決まると獲得までのプロセスが急に序章に変わります。シンガポールのホーカー文化を国民だけでなくシンガポールを訪れる世界の人々から、さすが世界遺産だね! と感じてもらうには相当な努力が必要になり、世界遺産となるための長い長い旅のスタート地点に立ったばかり。

 

これからはホーカーを「文化」として後世に伝え、存続させるため、文化継承の取り組みに関してユネスコに 6年ごとに報告書を提出する必要があります。シンガポールの場合は政府主導で国民を上手に巻き込んでうまくやるとは思いますがなかなかチャレンジングな活動でしょう。

 

 

今後ホーカー文化を維持していくにはどんなことが課題となるのでしょうか?

 

後継者問題

 

ホーカーで食事をつくる仕事は想像を越える大変さ。深夜に起きて早朝から働き始めるお店も多いです。エアコンのない暑い場所で長時間立ち続けて調理、作業をするのも体力がいります。個人経営をしているお店がほとんどで、その多くが家族、兄弟姉妹、親しい友達数人どうしでの個人経営です。勤務時間が長く、休みがとれない問題もあります。当然ながら有給休暇なんてありません。休めばその分収入が減るのです。そんな環境で今の若者がホーカーで働いてみたいと思うかどうかはもちろん NO、会社に雇われてエアコンのある綺麗な環境がいい、油や水を使った仕事をしたくない、わざわざ大変なことはしたくない、と思うのはシンガポールでなくても同じでしょう。

 

仮にホーカーフードを伝え続けたい「熱意、パッション」があったとしても、熱意を投入するに値する対価が得られるのかどうかも重要なこと。中にはとにかく好きだから収入は関係ないという人もいるかもしれませんが、お金はモチベーションを燃やし続ける大きな要素のひとつでもあります。若手の新規開業、継承などに関する助成金制度導入は今後検討されていくでしょう。

 

安価で美味しい庶民の味を提供し続けられるのか

 

ホーカーの魅力は美味しいローカルフードが安価で手軽に食べられること。時代と共に物価、人件費が上がる中、一定の質を維持しながら同じ値段で提供し続けるのは無理があります。利用者の口ぐせの多くは以前の味はもうない、昔と味は変わってしまった、といったもの。素直に意見を言っている部分もあるでしょう。本当に味が落ちている事実もあるでしょう。

 

シンガポール人の友人で、ローカルフードの良さを伝え続けている方が最近こんなことを言っていました。特定のお店について、もしも美味しくなかったとしても、それをソーシャルメディアでわざわざまずかったとか、非難する情報を広めるのはやめませんか。美味しくなかったのが本当だったとしても、そのことでお店の方がどんなに悲しい想いをすることか、日々の収入に影響するか知っていますか、と。

 

今オンラインで情報があっという間に拡散される時代。不味かったものを不味かったと言って何が悪いというのも意見のひとつとしてありだとは思います。いい情報だけを、というのも綺麗事だけで世の中回る訳ではないのも分かります。

 

でも伝え方や、そこに想いやりがあるかどうかを考えられる余裕があったら、より良い何かは生まれると思います。不満ではなくフィードバックで、悪い点があれば作り手は真摯に受け止める姿勢も大切だし、作る人、食べる人、両者のわずかな思いやりや気遣いが、全体的なレベルアップに繋がります。

  

ホーカー文化への価値感向上

   

全体的なレベルアップを実現するには、利用者のホーカー文化への価値観を高めることが必要になり、食べ物だけではない文化的側面も含めて、この文化を後世に伝え続けようという社会全体での取り組みが一層必要になります。家庭で親世代が子供世代にどう伝えるかも影響力が大きいです。

 

以前ホーカー文化をユネスコに登録申請中の時、夫にホーカーって一言で言ったら何? と質問したところ 「シンガポールの日常に欠かせないもの、特別な物ではなくシンガポールの日常。」と返事が返ってきたのが印象的でした。そう、日常的にあるのが当たり前だとなかなか価値観を見出すのは難しいかもしれません。でも継承が難しくなってから大切だ! と騒ぎ出しても遅いのです。可能性がたくさんある今ユネスコ入りしたのはとてもラッキーだったと思います。

 

以前から少しずつ始まっていますが、食べたらトレイを片付ける、テーブルや公共スペースを汚さないなど、マナー向上、清潔感アップについても今後政府主導によるムーブメントが始まるでしょう。

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世界遺産入りは名誉なことながら楽ではないですね。その分チャレンジしがいもあるのだと思います。ユネスコ入りを考えた時からここまで想定してのことだったと思いますし、シンガポールならその成果を出せると思います。高度に都市化され、変化が速いシンガポールで、ホーカー文化がこれからどう進化しながら継承されていくのか、海外の方がホーカーにどんな印象を持つのかなども、今後のホーカーの動きが楽しみです。

 

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イラスト提供 Instagram @singapolah

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