シンガポールの中央部、シンガポールのおへそのような場所に位置するブキブラン墓地。1922年植民地時代に作られた、華人向けの最初の公営墓地で、シンガポールで現存する最古の墓地であり、最大の墓地。1973年に閉鎖されるまで半世紀に渡って使われていました。
とにかく広い。広大な緑地で、現在約8万5千基のお墓があると言われていますが、深い茂みに隠れたお墓も無数にあります。今なお新たに発見される墓石があり、有志メンバーによる墓地保護、埋葬者の記録作成、復元、ガイドツアー主催による歴史と文化を伝える活動などが積極的に行われていますが、いまだ知られざる未知の部分が大きなブキブラウン墓地。墓地のガイドツアーを行っているボランティアグループがあり、過去にも何度か参加したことがあるのですが、つい先日行ってきました。
Google map 航空写真で見ても広大な緑地な事が分かります。日本人会の裏手になります。
Google map では ブキットブラウンと表示されていますが bukit はシンガポールでは地名や道路の名前によく使われていますね。マレー語で丘の意味ですが語尾の t は発音しないので ブキブラウンと書く方が好ましいです。
歴史を語りそうな古めかしいゲートが今も残っていますが、道路の建設によりゲートの位置が変わり、元あった場所から引っこ抜いて移設したそうです。
リークアンユー氏のおじい様、前大統領トニータン氏のおばあ様、OCBC銀行創設者、バス会社(SBS)創設者… 挙げたらきりがありませんが、シンガポール独立以前、あらゆる業界で華人先駆者として活躍した方々から一般人まで数多くの方が眠っており、ひとつひとつ見て行くと歴史を紐解く鍵に繋がりますが、墓地をよく知るガイドの方と一緒に行かなければ分からないことばかり。
ブキブラウン墓地が注目されたのは 2011年のこと。LTA (陸上交通局) が墓地をカットするように新しい道路を建設するため墓地の土地を縮小し、そのために墓地掘り起こし作業をすると発表したことによります。墓地保存を望むグループが強く反対しましたが、道路は計画通り建設され墓地は一部縮小。広大な土地なので一度に全面的になくなるようなことはないかもしれませんが、今後も長期に渡って縮小の危機にあうことでしょう。
お墓のデザイン、芸術的な装飾、タイルが使われたお墓、風水の要素、墓石に刻まれている子孫の名前や文字、情報から、単に死者が眠るだけの場所ではなく歴史と文化にあふれる財産だと強く話されていたのはガイドの Darren Koh さん。
ただ、私はとても複雑な気持ちになりました。Darren さんが言う歴史の宝庫であることは間違いなく、ただの墓地ではないのもとてもよく解ります。でも子孫ですらそこに自分たちの先祖が眠っている事すら知らない事実もあり、誰も訪れないお墓も多く、木と草に埋もれているお墓が多数。
レンガ造りの縁だけが見えるこちらの草に埋もれているお墓。これは道から見える位置にあるのでまだいい方です。ジャングルのような深い茂みをかき分けて入って行かないと行けないようなお墓も無数にあり、行く手間を考えると難しいのが正直なところ。
掘り起こして移設したお墓
掘り起こしというのは、土葬されているので掘り起こして遺骨を収集して骨壺に収めます。遺骨収納場所は私営か公営かを選びます。私営の場合はお寺か専用の遺骨収納場所があり値段が高め。数千ドル~万ドル単位まで様々。公営の収納場所は低価格で買えます。日本の墓じまいに近い感じです。
今年2月頭 コロナが始まったばかりの時。実家の墓じまいをするために一時帰国しました。墓じまいをして同じ墓園内に新しくできたロッカー式の共同墓地に無事移動しました。私が結婚したい人がいるんだけれどシンガポール人なんだ、と父と母に話した時、父が真っ先に言った言葉は、墓はどうするんだ、でした。父は兄弟の多い家族の中でずっと墓守をしてきたので父らしい一言。
本当は私に継いでほしかったのだと思いますが、私が元気なうちはお墓参りに行けるけれど、私もいつかは行けなくなる日が来るとずっと言い続けてきて、父が決心してくれてのことでした。コロナがひどくなる前にお墓の引越しができたのは本当に幸いでした。
私は一人娘だし、うちは娘も一人っ子。私自身が海外に出たことや、娘だって将来世界のどこにいるか分からないボーダレスな時代。お墓という固定された場所があることに縛られて制限を受けたくないと感じてきて、これからのお墓のあり方や自分が死んだらどうしたいかは私なりに考えてきて、今でも頭の片隅で考えていることのひとつ。時代が変わればお墓も変わる… そんな風に考えていることもあり、とても複雑な気持ちになりました。
■ ブキブラウン墓地への行き方
Lornie Road 沿いの Kheam Hock Road を入っていくと 表示があります。Kheam Hock Road → Lorong Halwa を歩いていきます。Lornie Road 沿いのバス停から歩いてゲートまで 10分かからないほど。犬の散歩、ジョギングに来ている方がたくさんいて、自由に出入りできますのでご心配なく。
■ facebook グループページ
(どなたでも参加できます、現在7500人以上のグループ)
現在は10人までの参加受付で、ガイドツアーが案内されるとすぐに満席になります。コロナ以前も人気のツアーで常に満席。ご興味ある方には価値ある内容のツアーです。
昨日の Kampong Buangkok 最後の村もそうですが、ブキブラウン墓地も同じく、常につきまとうのが開発か保存か。国土に余裕のある国なら事情もまた違うのでしょうけれど、シンガポールの場合はとても難しい課題と感じます。実際に訪れてみると思っている以上にいろいろな側面が見えてきますので足を運んでみて下さい。
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イラスト提供 Instagram @singapolah